LOGIN彼のペースに流されるままでいいのかと。理性が警告する。
「くそっ!」
僕は悪態をつき、相沢さんを見据える。
「覚悟は決まったか? 佳晴さん」
と、相沢さんは勝利を確信したように問う。
「……ええ、決まりましたよ。貴方は、僕の心までは自由にできない」
それではと、僕は彼に背を向けて歩き出す。
「今の
彼の言葉に、僕は動きを止めてしまった。
『幸せじゃない』
それは、僕が常々、思っている事だった。正確に言えば、五年前に恋人と別れてから、ずっと心の奥に引っかかり続けている。
「どうして、貴方が、それを……?」
言いながら、僕はゆっくりと振り返る。
誰にも言わず、ずっと胸の中にしまい続けていたはずなのに。なぜ、相沢さんが知っているのか。
「どうしてって、昨日、ここで俺に抱かれる前に言ってたじゃん。恋人と別れてからずっと、幸せじゃない状態が続いてるって。どうしたら、この状態から抜け出せるのかって」
それも覚えていないのかと、相沢さんが首をかしげる。
「それは……」
言いかけて、僕は何も言えずに黙り込んだ。
正直なところ、言ったのかどうかさえ、覚えていない。でも、彼が嘘を吐いているとは、どうしても思えなかった。
「ねえ、佳晴さん。理性じゃなくて、感情で考えてもいいんじゃない? たまには、さ」
甘く諭す相沢さんの言葉に、僕の心はぐらりと揺れ動いた。
(感情で考える……? それって、つまり――)
そう考えた瞬間、腹の奥にどろりとした熱いものを感じた。
自分の体がその気になっていることを自覚して、僕は諦めるように深くため息をついた。
「相沢さん。一つだけ、確認したい事があります」
「何?」
「僕が……ここで逃げなければ、幸せじゃない状態から抜け出せる。それで間違いないですか?」
と、僕は彼を見据えてたずねた。
「少なくとも、今よりは」
妖艶な笑みを浮かべたままの相沢さんは、言葉少なに肯定した。
「……わかりました」
その言葉を信じた僕は、淡黄色のカクテルを一気にのどに流し込む。
「あ、ちょっ……!?」
慌てたような相沢さんの声が聞こえたけれど、聞こえない振りをした。
ごくりとのどを鳴らして飲み、グラスをテーブルに置く。瞬間、視界がぐらりと歪んだ。
(――っ! きつ……)
めまいにも似た感覚に、僕はテーブルに手を置いて体を支える。腹の中が、燃えるように熱い。
鼓動が速くなり、頭が心臓にでもなったのではと思うほど、脈打つ感覚に苛まれる。
「まったく、一気飲みなんて無茶するぜ」
と、相沢さんは呆れたように言った。
何か反論したかったけれど、上手く思考がまとまらない。
「こ、れ……何?」
「何って、酒。今、俺が飲んでるのと同じカクテルだよ。言ったろ? アルコール度数、高いって。」
初めての感覚に思考が追いつかず、どうすればいいのかわからない。
「あいざわ、さん……」
縋るように、喘ぐように彼の名を呼んだ。
切れ長の目を細めたかと思うと、相沢さんはグラスに残ったカクテルを一気に飲み干す。
上下する彼ののど元から、僕は視線をはずすことができなかった。カクテルを飲んでいるだけなのに、なぜか扇情的な光景に見えた。そのせいか、下半身が痛いくらいに反り勃っている。
「……いいぜ。教えてやるよ。幸せになる方法を」
低い声で唸るように言うと、相沢さんは僕の手を取った。
「――っ!」
触れられただけなのに、変な声が出そうになってしまった。人肌に触れる事が、五年ぶりだからだろうか。おかしいくらい、敏感になっている。
(これ、やばいな。抜いたばかりなのに……)
ふわふわした頭で、そんな事を考える。
ほんの少し自身を触られただけで、すぐにでも達してしまいそうだ。
「おいで」
甘い声でささやくと、相沢さんは僕の手を引いて、寝室に向かった。
寝室は、朝とさほど変わりがなかった。壁にかけられたジャケット、ベッドには白い掛け布団と枕、埃のないフローリングの床。
違うところと言えば、光源が、窓から入る日光ではなく昼白色の電灯という事だけ。ただそれだけなのに、爽やかさはまるでない。いや、爽やかではあるのかもしれない。でも、少なくとも今の僕には、そんなものは欠片も感じられなかった。
ベッドに座るよううながされ、僕は素直に腰かける。
うるさいくらいに早鐘を打つ鼓動と火照った体。この衝動を早く鎮めてほしくて、潤んだ目で相沢さんを見つめた。
「さて。どうしてほしい?」
焦らすようにたずねる相沢さん。
その薄い笑みさえも、僕の欲情を煽る要因にしかならない。
「……早く、抱いて……ください」
そう告げる僕の声は、恥ずかしさで震えていた。けれど、それ以上に、体を蝕んでいく欲望から解放されたかった。
相沢さんは、口角をゆっくりと引き上げると、僕に口づけた。
「……っ! んぅ……」
触れるだけのキスなのに、頭の奥が甘くしびれてくる。
(やば……。キスって、こんなに気持ちよかったっけ……?)
ぼんやりと考えるけれど、彼の唇の感触と体温にどうでもよくなってくる。
「――ん゛っ!?」
いきなり、ぬらりと彼の舌が唇を割って入ってきた。
舌を絡められ、口内をまさぐられ、蹂躙される。思わぬ快感に、僕は上手く対応することができなかった。
「……んっ……ぅ……ん、ふ……」
気がつくと、僕は甘い吐息をもらしていた。抑えようとしても、勝手に出てしまう。
(何で、この人……こんな、キス上手いんだ……?)
翻弄されながら、僕はそんな事を考えていた。
まるで、僕の口内の弱いところを知っているような舌使いだ。
(そういえば、昨日の夜もしてるんだっけ……)
ふと、昨夜の記憶が蘇った。彼の舌が、ちろちろと歯をなぞり、ねっとりと僕の舌に絡みつく。その感覚が、今、この瞬間のものなのか、記憶の中のものなのかわからなくなる。
瞬間、背筋に甘い衝撃が走った。
「ん゛……っ!?」
相沢さんが、キスをしながら僕の背中に指を這わせたからだ。
「ふ……ぁ、ぅ……ん゛っ!」
肌が粟立つ感覚に、僕の体はびくりと跳ねた。まぶたを閉じているはずなのに、目の前がチカチカと明滅する。頭の中だけが、じわじわと熱い。けれど、僕自身は硬いままだ。
口内で暴れていた相沢さんの舌が、僕から離れる。名残惜しくて、僕は縋るようにまぶたを開けた。
相沢さんは、意外にもすぐ近くにいた。
「もしかして、イッちゃった?」
と、少し意地の悪い笑みを浮かべている。
荒い呼吸を繰り返しながら、僕はわからないと告げた。溢れ出た感覚がなかった。
「脳イキでもしたのかな? とろんとした目、してる。ふふっ、まだまだこんなもんじゃないぜ。頭ん中、ぐっずぐずに溶けるくらい気持ちいい事、たっぷり教えてやるから」
口角を上げて、そう宣言する相沢さん。
「ぁ……」
彼の言葉と妖艶なまなざしに、僕の口から声がもれた。何を期待したのかは、自分でもよくわからない。けれど、胸が高鳴り、体の奥が疼いたのを感じた。
(ぐずぐずに溶けるくらい気持ちいい事って、いったい……。というか、本当にこれが、幸せになる方法……なのか?)
ぼやける脳裏に、そんな疑問が湧いてくる。
このまま快楽に溺れてしまってもいいのか、一時の気の迷いなのではないか。説き伏せたはずの理性が、頭をもたげてくる。
「佳晴さん。何、ぼーっとしてんの?」
目の前にいたはずの相沢さんの声が、なぜか耳もとで聞こえた。
「ひぁっ……!」
僕は、思わず変な声を上げて肩を震わせる。
(なんで、こんな……ささやかれた、だけなのに!)
自分は、こんなに耳が弱かっただろうかと考えてしまう。
今までにも、恋人にささやかれたことはある。女性特有の甘やかな声が、とても心地よく響いていた記憶がある。けれど、ここまで、体が反応することなんてなかった。
酒に酔っているからなのか、それとも――。
自分が感じていることに理由がほしくて、思考を巡らせていると、さわさわと腹を直になでられた。
「……っ!? ちょ、ちょっと……相沢さん! どうして……?」
「どうしてって、言ったでしょ。頭ん中、ぐっずぐずに溶けるくらい気持ちいい事、教えるって」
言いながら、相沢さんは僕のシャツの中に手を入れて、腹や背中に指を這わせる。
触れられた部分が粟立ち、快感の波が広がっていく。
「……っ! あ、相沢さん! これ……っ、本当に……ふっ……幸せになるのに……んっ……必、要……なんです、か……?」
甘やかな刺激に耐えながら、相沢さんにたずねる。
「もちろん、必須項目だよ。佳晴さんが変わるための、ね。それに、抱いてほしいって言ったのは、佳晴さんでしょ?」
そう答えると、相沢さんは僕のシャツをゆっくりとたくし上げる。
「そ、ですけど……。あ、ちょっ……待っ……! ……あぁっ!」
彼の指が胸の突起に触れた瞬間、甘い嬌声が室内に響いた。
(え……今の、僕……?)
気づいた途端、とてつもない羞恥心に苛まれる。
「へえ? いい声出すじゃん。もっと、鳴かせたくなってきた」
低くつぶやいたかと思うと、相沢さんは、執拗に乳首をこねくり回し始めた。
「ちょ……あっ! あいざわ、さん……やめ……くっ……ぅ……」
と、相沢さんの手を止めようとした。けれど、思うように力が入らない。
「やめてほしい? どうして? 気持ちよさそうなのに」
言いながら、相沢さんは僕の背中にキスを落とす。
「ひぁっ……!」
知らない感触に、喘ぐことしかできない。
今まで『相沢さんに触れられている』という最低限の情報しか認識しようとしていなかった。それなのに、『触れられて気持ちがいい』という情報の波が押し寄せ、僕の肌は一気に敏感になっていく。
「ふっ……ぁ、あ゛っ……あ、そ、それ、だめ……です! ひ……やっ……やめて! うあ……ぁっ!」
相沢さんの執拗な乳首攻めに、体が震える。気持ちよすぎて、何も考えられなくなっていく。
「ふふ、感度よすぎ」
と、満足そうに笑う相沢さん。指の動きは止まらないどころか、加速していく。
「そ……んなこと……あ゛っ……い、われてもぉ……。あ゛っ、あ゛ぁ、だめっ! ……だめだめだめっ! も……イ゛ッ……!」
限界に達しそうになった瞬間、相沢さんは手を止めて僕から離れた。
「え……?」
情けない声を出して、彼を見上げる。
「物欲しそうな顔しちゃって。やめてほしかったんでしょ?」
冷たく笑う相沢さんは、そう言って僕を突き放す。
「ぁ……」
確かに、やめてほしいと願った。けれど、一度、火を灯されてしまったら、ぐずぐずになるまで燃やされなければ止まらない。
「あいざわさん……」
僕は、懇願するように彼の名を呼んだ。
「触ってほしかったら、脱いで横になって」
表情はそのままで、相沢さんは顎でベッドを指し示した。
僕に選択権があるように見えて、実際には選択肢なんて一つしかない。
僕は、彼に命じられるまま服に手をかける。彼のまとわりつく視線を感じながら、どうにか服を脱いだ。早く触れてほしくて、ベッドに横になる。
「いい子だ」
そう言って、相沢さんは服を脱ぎ捨てる。
彼の体は、思ったよりも引き締まっていて、僕の心臓はどきりと跳ねた。この後のことを考えると、反り勃つ自身がひくついてしまう。
相沢さんは、無言で僕に跨がると、
「それにしても、いい体してるよなぁ」
つぶやいて、僕の腹筋をなぞる。
「ひゃっ……! ぁ……や……」
「嫌じゃないでしょ? ガマン汁たらしながら、ビクつかせてるくせに」
相沢さんは、僕自身を指の腹でゆっくりとなで上げた。
「ひぎぃ……っ!!」
瞬間、僕の体は、弓反りに跳ねた。けれど、溜まった欲望はまだ出ていない。こんな快感が続いたら、頭の中が溶けてしまいそうだ。
「あれ? また、脳イキ決めちゃった? ははっ。あんたみたいに感度がいい奴、大好きだぜ!」
相沢さんはそう言うと、僕の耳もとに顔を近づけた。
「いけないこと、いろいろ、したくなっちゃう」
甘く低い声で、ねっとりとささやく。
「ん゛ぅっ……!」
自分の体なのに、コントロールできない。体だけが勝手に反応して、頭が追いついていかない。
「あ、あいざわ、さん……。あのカクテル、本当に……薬とか……入ってないんです、か?」
涙目で快楽に耐えながら、僕は相沢さんにたずねる。
「入れてないよ。言ったでしょ? もう騙し討ちはしたくないって。俺が飲んでるカクテルと同じ物だって。もしかして、俺が薬入れたとか思っちゃった?」
相沢さんが、僕の肌に指を滑らせる。それが、とてつもなく気持ちがいい。
「だ、だって、こんな……ふっ……感じるだなんて、今まで……あ゛……なかった、から!」
「じゃあ、もっと気持ちよくなってもらわなきゃ。俺じゃなきゃイケないくらいに、ね」
そう言って、彼は仄暗い笑みを讃える。
(やばい! こんなの……おかしくなる!)
「……まだ仕事は終わってない、か」スマホで時刻を確認して、僕はため息をついた。篝火から帰宅して、シャワーを浴びたにもかかわらず、体内のどろりとした熱は燻ったままだ。いつも通り彼の部屋――寝室で、彼の帰りを待つ。「竜希……」熱に浮かされたように彼を呼ぶけれど、返事はもちろんなく、静かな部屋に消えていった。深く息をつき、スマホに視線を落とす。気を紛らわそうとSNSを眺めるけれど、内容が頭に入ってこない。脳内に浮かぶのは、竜希の顔で。「……竜希に依存してるなぁ」ため息とともにつぶやいて、ベッドに体を預ける。こんなに誰かを想っているなんて、本当に久しぶりだ。もしかしたら、初めてかもしれない。それほどまでに、僕は竜希を求めていた。体だけでなく、心も作り替えられてしまった。もちろん、嫌ではない。嫌ではないのだけれど……。(竜希……)彼の幻影を追い求めて、手が自然と下半身に伸びていく。「……っ!」スラックス越しに自身に触れ、すでに硬く反り勃っているのを自覚した。竜希がどう触れていたのかを思い出しながら、ゆっくりとさする。ぞわぞわと、甘い痺れが肌を駆け上がってくる。でも、何か物足りない。(……やっぱり、竜希じゃないとだめなのか?)もどかしさに追い立てられるように、直に自身に触れた。「あっ……!」びくりと体が震え、電撃のような刺激が走った。手は止まらず、息は上がる。次第に、頭がぼうっとしてくる。「人のベッドで、何してんの?」突然、竜希の声が聞こえて、僕は弾かれたように視線を向けた。扉の前には、いつの間に帰って来たのか、竜希が腕を組んで立っている。「あ、えっと&hel
翌日から、僕は篝火通いを再開した。扉を開くと、マスターと理沙さんが以前と変わらずに出迎えてくれた。もちろん、竜希も。いつもの席でチャイナブルーをオーダーすると、竜希がそつなくカクテルを作る。その姿が本当にかっこよくて、思わず見惚れてしまった。「お待たせいたしました」声とともに、鮮やかな青色のカクテルが僕の目の前に置かれた。「ありがとう。それにしても、たつ……相沢さんは、本当に手際がいいですよね」竜希と言いかけて、慌てて言い直した。「ありがとうございます。一応、これで生活してますので。それより、今、名前で呼ぼうとしたでしょ?」と、喉の奥で笑う竜希。「しかたないだろ? まだ、切り替えに慣れてないんだよ」声を抑えて抗議する。「でも、一線を画したいって言ったのは、佳晴さんですよ?」「それは、そうだけど……。なんか、ずるいよな。貴方は、どっちの時でも変わらないんだから」「俺は、こういうスタンスでやらせてもらってますので」ドヤ顔で宣う竜希に、少しだけ負けた気分になる。(でも、竜希が僕に沼ってるのは、事実だもんね)と、僕は密かにほくそ笑む。「佳晴さん? どうかしました?」小首をかしげる竜希に何でもないと言って、グラスを傾ける。爽やかな香りが、秘密を分け合う共犯者のように感じた。何か話したそうな竜希だったけれど、他の客からのご指名が入った。相沢相談所は、今日も盛況のようだ。竜希の背中を見送っていると、「お久しぶりですね」低く静かな声が聞こえた。振り向くと、いつの間にかカウンター越しにマスターがいた。「本当にご無沙汰してしまって……。その節は、お世話になりました」テーブルにつきそうなほど、深く頭を下げる。「いえ、私は何も。また、お客様がこうして来てくださった。それだけでは
「うん、美味い」と、竜希は満面の笑みで言った。ほっとして、僕もカレーを食べ始める。僕史上、最高の出来に仕上がっていて、思わずにんまりした。「自分で作るより、確実に美味いわ」竜希が、大絶賛で頬張っている。「褒められるのはうれしいけど、普通に作っただけだよ?」「謙遜すんなって。マジで美味いんだから。でもさ、じゃがいも、入れてないんだな」「ああ、うん。そういえば、今までじゃがいもを入れた事なかったかも」指摘されて、無意識にじゃがいもを避けていた事に気がついた。幼い頃から、カレーにじゃがいもが入っていないことが当たり前だったからだろう。「竜希は、じゃがいも入れる派なんだ?」「あー……気分によるけど、基本的には入れるかな」思案しながら、竜希が答える。「でも、入れない方が好きかも。このくらいの辛さが、ちょうどいいんだよね」「よかった。多めに作ったから、ルウだけでよければ、おかわりしても大丈夫だよ」僕が言うと、竜希は瞳を輝かせてうなずいた。「それにしても、佳晴さんって料理上手なんだな」「自炊するから、それなりにはね」「カレー以外も食いたいなー」期待するようなまなざしを向けられ、僕は「そのうちな」とはにかむ。まさか、こんなに好評だとは思っていなかった。今までは、自分の好きなように適当に作っていたけれど、今度からは竜希のためにも、もう少しきちんと作ろうと思った。「でも、本当に僕なんかが作る料理でいいの?」ふと、よぎった不安を口走る。「……なよ」それまでもりもりとカレーを食べていた竜希は、手を止めると沈んだ声でつぶやいた。「え……?」よく聞こえず、僕は少し身を乗り出すように聞き返した。「『僕なんか』なんて言うなよ。悲しくなるだろ。他の誰でもない、俺が、あんたの手料理を食いたいの!」
まどろみの中で、僕は眩しさを感じた。ゆっくりとまぶたを開けると、カーテンの隙間から爽やかな朝の光が差し込んでいる。起き上がろうとして、胸の上の重みに気がついた。隣を見ると、竜希が僕を抱き枕にしていた。(そういえば、竜希の部屋に泊まったんだっけ)と、気持ちよさそうな竜希の寝顔を見つめる。「ん……よしはるさん……」「ふふっ。どんな夢を見てるんだか」微笑みながら小さくつぶやいて、彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。極力、物音を立てないように気をつけながら、着替えを済ませる。「ふぁ……あれ? もう、あさ……?」寝ぼけたような竜希の声が聞こえた。「おはよう、竜希。僕はそろそろ起きるけど、竜希はまだ寝てていいよ」言いながら、僕はベッドに近づいた。竜希の額に、軽くキスを落とす。「ん……冷蔵庫にサンドイッチが入ってるから、食べていいよ」竜希はくすぐったそうに目を細めると、ぽやっとした笑みを浮かべて言った。「サンドイッチ? もしかして、昨日の夜、先に寝てていいって言ってたのって――」僕が小首をかしげると、彼は軽くうなずいた。「朝から飯作るのって、面倒だったりするじゃん? 佳晴さんには、ゆっくり寝ててほしかったから」そう言って、竜希はもう一度あくびをする。「ありがとう、遠慮なくいただくよ」「うん。いってらっしゃい、おやすみぃ……」そう言うと、竜希はまぶたを閉じてすぐに寝入った。僕は小声でおやすみを告げると、愛おしい彼の頭を優しくなでて部屋から出た。「冷蔵庫は、と……」つぶやきながらキッチンをのぞくと、すぐ近くに黒い冷蔵庫が鎮座していた。扉を開くと、棚の中央にサンドイッチの皿があった。それとコーヒー牛乳のパックを取り出
「美味そう……」つぶやくと同時に、僕の腹が鳴った。「冷めないうちに食おうぜ」待ちきれないとばかりに、竜希がうながす。僕は何食わぬ顔でうなずいて、食卓についた。幸い、僕の腹の音は、彼には聞こえていなかったようだ。二人分のミートソースパスタとコーンスープからは、美味しそうな湯気が立っている。僕達はいただきますと言って、早速、食事に手をつけた。コーンスープのコクと甘味が、食べ応えのあるパスタにちょうどいい。「うん、美味い。さすがだね。短時間で、二品も仕上げるんだから」「サンキュー。でも、コーンスープは、市販のやつだよ。あの短時間で、パスタ作りつつ、ここまでなめらかにするのは、さすがに無理だって」と、謙遜する竜希。それでも、僕からしてみれば、すごい事には違いない。もし、同じ状況で僕が作ったら、二倍とはいかないまでも時間がかかると思う。「ごめん、佳晴さん」突然、竜希が頭を下げた。「え? いきなり、何?」理由がわからなくて、僕は小首をかしげた。「いや……明日、佳晴さん仕事だろ? なのに、無理させちまったから……」うなだれる竜希の姿は、どこかしょんぼりとした大型犬を彷彿とさせる。それが、何だかかわいらしいと思った。「ちょっとだるいけど、大丈夫だよ」だから謝らなくていいと言い置いて、僕はパスタを頬張った。「じゃあ、せめて、佳晴さんの家の場所を教えてよ」送らせてほしいと、彼は真摯に告げる。「……あれ? 言ってなかったっけ? 僕の自宅、このアパートの一階にあるんだ」「……へ?」素っ頓狂な声を上げ、竜希が目を丸くする。「なんか、ごめん」僕が謝ると、竜希は脱力したように微笑んだ。「いや……それなら、遅くなっても大丈夫だよな?」「え、いや、でも……明日、仕事だし……」「えー? いいじゃん。もう少し、佳晴さんと一緒にいたいんだって」
「挿れるよ」宣言した直後、相沢さんはゆっくりと僕の中に挿入ってきた。久しぶりだからか、内側から押し広げられる感覚がある。でも、痛みは、まったくなかった。「やば……久しぶりの佳晴さんの中、あちぃ……。このまま、溶けそう」言いながら、彼は僕の中に自身を沈めていく。「相沢さんの、おっきぃ……」切なかった腹の中が、少しずつ彼で満たされていく。言いようのない心のざわつきも、彼のぬくもりで溶かされていった。彼を根元まで迎え入れた直後、「あ゛ぁああ……っ!」僕は呆気なく達してしまった。腹の上に広がる白濁が熱い。でも、僕自身はまだ勃ち上がったままだ。「挿入れただけで、イッちゃった?」そう言って微笑む彼に、僕は荒い息をつきながらうなずく。「かわいい。でも、まだ終わりじゃないぜ? もっと、俺を感じてよね」と、相沢さんは緩い抽挿を始める。「な゛っ……!? だめ! イッた、ばっか……なのにぃ!」「だから、いいんだろ?」妖艶に言って、相沢さんはゆっくりと腰を動かす。全身を駆け巡る甘いしびれに、僕は喘ぎ悶える。「好きな人とのセックスって……こんなにイイもんなんだな」相沢さんが、恍惚な表情でつぶやいた。その言葉には、同意しかない。身も心も繋がる心地よさは、本当に久しぶりだった。「あいざわ、さん……んぁ……すきぃ……」「俺も好きだよ、佳晴さん」睦言を交わしながら、キスをする。舌を絡め、互いの唇を夢中で貪る。抽挿は次第に速くなり、僕も無意識に腰を動かしていた。「んっ……んふぅ……ぁっ&h