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第4話 蜜月の始まり

last update Petsa ng paglalathala: 2026-03-04 16:10:00

彼のペースに流されるままでいいのかと。理性が警告する。

「くそっ!」

僕は悪態をつき、相沢さんを見据える。

「覚悟は決まったか? 佳晴さん」

と、相沢さんは勝利を確信したように問う。

「……ええ、決まりましたよ。貴方は、僕の心までは自由にできない」

それではと、僕は彼に背を向けて歩き出す。

「今の········が続いても?」

彼の言葉に、僕は動きを止めてしまった。

『幸せじゃない』

それは、僕が常々、思っている事だった。正確に言えば、五年前に恋人と別れてから、ずっと心の奥に引っかかり続けている。

「どうして、貴方が、それを……?」

言いながら、僕はゆっくりと振り返る。

誰にも言わず、ずっと胸の中にしまい続けていたはずなのに。なぜ、相沢さんが知っているのか。

「どうしてって、昨日、ここで俺に抱かれる前に言ってたじゃん。恋人と別れてからずっと、幸せじゃない状態が続いてるって。どうしたら、この状態から抜け出せるのかって」

それも覚えていないのかと、相沢さんが首をかしげる。

「それは……」

言いかけて、僕は何も言えずに黙り込んだ。

正直なところ、言ったのかどうかさえ、覚えていない。でも、彼が嘘を吐いているとは、どうしても思えなかった。

「ねえ、佳晴さん。理性じゃなくて、感情で考えてもいいんじゃない? たまには、さ」

甘く諭す相沢さんの言葉に、僕の心はぐらりと揺れ動いた。

(感情で考える……? それって、つまり――)

そう考えた瞬間、腹の奥にどろりとした熱いものを感じた。

自分の体がその気になっていることを自覚して、僕は諦めるように深くため息をついた。

「相沢さん。一つだけ、確認したい事があります」

「何?」

「僕が……ここで逃げなければ、幸せじゃない状態から抜け出せる。それで間違いないですか?」

と、僕は彼を見据えてたずねた。

「少なくとも、今よりは」

妖艶な笑みを浮かべたままの相沢さんは、言葉少なに肯定した。

「……わかりました」

その言葉を信じた僕は、淡黄色のカクテルを一気にのどに流し込む。

「あ、ちょっ……!?」

慌てたような相沢さんの声が聞こえたけれど、聞こえない振りをした。

ごくりとのどを鳴らして飲み、グラスをテーブルに置く。瞬間、視界がぐらりと歪んだ。

(――っ! きつ……)

めまいにも似た感覚に、僕はテーブルに手を置いて体を支える。腹の中が、燃えるように熱い。

鼓動が速くなり、頭が心臓にでもなったのではと思うほど、脈打つ感覚に苛まれる。

「まったく、一気飲みなんて無茶するぜ」

と、相沢さんは呆れたように言った。

何か反論したかったけれど、上手く思考がまとまらない。

「こ、れ……何?」

「何って、酒。今、俺が飲んでるのと同じカクテルだよ。言ったろ? アルコール度数、高いって。」

初めての感覚に思考が追いつかず、どうすればいいのかわからない。

「あいざわ、さん……」

縋るように、喘ぐように彼の名を呼んだ。

切れ長の目を細めたかと思うと、相沢さんはグラスに残ったカクテルを一気に飲み干す。

上下する彼ののど元から、僕は視線をはずすことができなかった。カクテルを飲んでいるだけなのに、なぜか扇情的な光景に見えた。そのせいか、下半身が痛いくらいに反り勃っている。

「……いいぜ。教えてやるよ。幸せになる方法を」

低い声で唸るように言うと、相沢さんは僕の手を取った。

「――っ!」

触れられただけなのに、変な声が出そうになってしまった。人肌に触れる事が、五年ぶりだからだろうか。おかしいくらい、敏感になっている。

(これ、やばいな。抜いたばかりなのに……)

ふわふわした頭で、そんな事を考える。

ほんの少し自身を触られただけで、すぐにでも達してしまいそうだ。

「おいで」

甘い声でささやくと、相沢さんは僕の手を引いて、寝室に向かった。

寝室は、朝とさほど変わりがなかった。壁にかけられたジャケット、ベッドには白い掛け布団と枕、埃のないフローリングの床。

違うところと言えば、光源が、窓から入る日光ではなく昼白色の電灯という事だけ。ただそれだけなのに、爽やかさはまるでない。いや、爽やかではあるのかもしれない。でも、少なくとも今の僕には、そんなものは欠片も感じられなかった。

ベッドに座るよううながされ、僕は素直に腰かける。

うるさいくらいに早鐘を打つ鼓動と火照った体。この衝動を早く鎮めてほしくて、潤んだ目で相沢さんを見つめた。

「さて。どうしてほしい?」

焦らすようにたずねる相沢さん。

その薄い笑みさえも、僕の欲情を煽る要因にしかならない。

「……早く、抱いて……ください」

そう告げる僕の声は、恥ずかしさで震えていた。けれど、それ以上に、体を蝕んでいく欲望から解放されたかった。

相沢さんは、口角をゆっくりと引き上げると、僕に口づけた。

「……っ! んぅ……」

触れるだけのキスなのに、頭の奥が甘くしびれてくる。

(やば……。キスって、こんなに気持ちよかったっけ……?)

ぼんやりと考えるけれど、彼の唇の感触と体温にどうでもよくなってくる。

「――ん゛っ!?」

いきなり、ぬらりと彼の舌が唇を割って入ってきた。

舌を絡められ、口内をまさぐられ、蹂躙される。思わぬ快感に、僕は上手く対応することができなかった。

「……んっ……ぅ……ん、ふ……」

気がつくと、僕は甘い吐息をもらしていた。抑えようとしても、勝手に出てしまう。

(何で、この人……こんな、キス上手いんだ……?)

翻弄されながら、僕はそんな事を考えていた。

まるで、僕の口内の弱いところを知っているような舌使いだ。

(そういえば、昨日の夜もしてるんだっけ……)

ふと、昨夜の記憶が蘇った。彼の舌が、ちろちろと歯をなぞり、ねっとりと僕の舌に絡みつく。その感覚が、今、この瞬間のものなのか、記憶の中のものなのかわからなくなる。

瞬間、背筋に甘い衝撃が走った。

「ん゛……っ!?」

相沢さんが、キスをしながら僕の背中に指を這わせたからだ。

「ふ……ぁ、ぅ……ん゛っ!」

肌が粟立つ感覚に、僕の体はびくりと跳ねた。まぶたを閉じているはずなのに、目の前がチカチカと明滅する。頭の中だけが、じわじわと熱い。けれど、僕自身は硬いままだ。

口内で暴れていた相沢さんの舌が、僕から離れる。名残惜しくて、僕は縋るようにまぶたを開けた。

相沢さんは、意外にもすぐ近くにいた。

「もしかして、イッちゃった?」

と、少し意地の悪い笑みを浮かべている。

荒い呼吸を繰り返しながら、僕はわからないと告げた。溢れ出た感覚がなかった。

「脳イキでもしたのかな? とろんとした目、してる。ふふっ、まだまだこんなもんじゃないぜ。頭ん中、ぐっずぐずに溶けるくらい気持ちいい事、たっぷり教えてやるから」

口角を上げて、そう宣言する相沢さん。

「ぁ……」

彼の言葉と妖艶なまなざしに、僕の口から声がもれた。何を期待したのかは、自分でもよくわからない。けれど、胸が高鳴り、体の奥が疼いたのを感じた。

(ぐずぐずに溶けるくらい気持ちいい事って、いったい……。というか、本当にこれが、幸せになる方法……なのか?)

ぼやける脳裏に、そんな疑問が湧いてくる。

このまま快楽に溺れてしまってもいいのか、一時の気の迷いなのではないか。説き伏せたはずの理性が、頭をもたげてくる。

「佳晴さん。何、ぼーっとしてんの?」

目の前にいたはずの相沢さんの声が、なぜか耳もとで聞こえた。

「ひぁっ……!」

僕は、思わず変な声を上げて肩を震わせる。

(なんで、こんな……ささやかれた、だけなのに!)

自分は、こんなに耳が弱かっただろうかと考えてしまう。

今までにも、恋人にささやかれたことはある。女性特有の甘やかな声が、とても心地よく響いていた記憶がある。けれど、ここまで、体が反応することなんてなかった。

酒に酔っているからなのか、それとも――。

自分が感じていることに理由がほしくて、思考を巡らせていると、さわさわと腹を直になでられた。

「……っ!? ちょ、ちょっと……相沢さん! どうして……?」

「どうしてって、言ったでしょ。頭ん中、ぐっずぐずに溶けるくらい気持ちいい事、教えるって」

言いながら、相沢さんは僕のシャツの中に手を入れて、腹や背中に指を這わせる。

触れられた部分が粟立ち、快感の波が広がっていく。

「……っ! あ、相沢さん! これ……っ、本当に……ふっ……幸せになるのに……んっ……必、要……なんです、か……?」

甘やかな刺激に耐えながら、相沢さんにたずねる。

「もちろん、必須項目だよ。佳晴さんが変わるための、ね。それに、抱いてほしいって言ったのは、佳晴さんでしょ?」

そう答えると、相沢さんは僕のシャツをゆっくりとたくし上げる。

「そ、ですけど……。あ、ちょっ……待っ……! ……あぁっ!」

彼の指が胸の突起に触れた瞬間、甘い嬌声が室内に響いた。

(え……今の、僕……?)

気づいた途端、とてつもない羞恥心に苛まれる。

「へえ? いい声出すじゃん。もっと、鳴かせたくなってきた」

低くつぶやいたかと思うと、相沢さんは、執拗に乳首をこねくり回し始めた。

「ちょ……あっ! あいざわ、さん……やめ……くっ……ぅ……」

と、相沢さんの手を止めようとした。けれど、思うように力が入らない。

「やめてほしい? どうして? 気持ちよさそうなのに」

言いながら、相沢さんは僕の背中にキスを落とす。

「ひぁっ……!」

知らない感触に、喘ぐことしかできない。

今まで『相沢さんに触れられている』という最低限の情報しか認識しようとしていなかった。それなのに、『触れられて気持ちがいい』という情報の波が押し寄せ、僕の肌は一気に敏感になっていく。

「ふっ……ぁ、あ゛っ……あ、そ、それ、だめ……です! ひ……やっ……やめて!  うあ……ぁっ!」

相沢さんの執拗な乳首攻めに、体が震える。気持ちよすぎて、何も考えられなくなっていく。

「ふふ、感度よすぎ」

と、満足そうに笑う相沢さん。指の動きは止まらないどころか、加速していく。

「そ……んなこと……あ゛っ……い、われてもぉ……。あ゛っ、あ゛ぁ、だめっ! ……だめだめだめっ! も……イ゛ッ……!」

限界に達しそうになった瞬間、相沢さんは手を止めて僕から離れた。

「え……?」

情けない声を出して、彼を見上げる。

「物欲しそうな顔しちゃって。やめてほしかったんでしょ?」

冷たく笑う相沢さんは、そう言って僕を突き放す。

「ぁ……」

確かに、やめてほしいと願った。けれど、一度、火を灯されてしまったら、ぐずぐずになるまで燃やされなければ止まらない。

「あいざわさん……」

僕は、懇願するように彼の名を呼んだ。

「触ってほしかったら、脱いで横になって」

表情はそのままで、相沢さんは顎でベッドを指し示した。

僕に選択権があるように見えて、実際には選択肢なんて一つしかない。

僕は、彼に命じられるまま服に手をかける。彼のまとわりつく視線を感じながら、どうにか服を脱いだ。早く触れてほしくて、ベッドに横になる。

「いい子だ」

そう言って、相沢さんは服を脱ぎ捨てる。

彼の体は、思ったよりも引き締まっていて、僕の心臓はどきりと跳ねた。この後のことを考えると、反り勃つ自身がひくついてしまう。

相沢さんは、無言で僕に跨がると、

「それにしても、いい体してるよなぁ」

つぶやいて、僕の腹筋をなぞる。

「ひゃっ……! ぁ……や……」

「嫌じゃないでしょ? ガマン汁たらしながら、ビクつかせてるくせに」

相沢さんは、僕自身を指の腹でゆっくりとなで上げた。

「ひぎぃ……っ!!」

瞬間、僕の体は、弓反りに跳ねた。けれど、溜まった欲望はまだ出ていない。こんな快感が続いたら、頭の中が溶けてしまいそうだ。

「あれ? また、脳イキ決めちゃった? ははっ。あんたみたいに感度がいい奴、大好きだぜ!」

相沢さんはそう言うと、僕の耳もとに顔を近づけた。

「いけないこと、いろいろ、したくなっちゃう」

甘く低い声で、ねっとりとささやく。

「ん゛ぅっ……!」

自分の体なのに、コントロールできない。体だけが勝手に反応して、頭が追いついていかない。

「あ、あいざわ、さん……。あのカクテル、本当に……薬とか……入ってないんです、か?」

涙目で快楽に耐えながら、僕は相沢さんにたずねる。

「入れてないよ。言ったでしょ? もう騙し討ちはしたくないって。俺が飲んでるカクテルと同じ物だって。もしかして、俺が薬入れたとか思っちゃった?」

相沢さんが、僕の肌に指を滑らせる。それが、とてつもなく気持ちがいい。

「だ、だって、こんな……ふっ……感じるだなんて、今まで……あ゛……なかった、から!」

「じゃあ、もっと気持ちよくなってもらわなきゃ。俺じゃなきゃイケないくらいに、ね」

そう言って、彼は仄暗い笑みを讃える。

(やばい! こんなの……おかしくなる!)

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